「何しらじらしいうそついてるのよ。呼ばせたくない奴には『リン』って呼べって言うし、林太郎って男感満載だけど、『森鴎外の本名と同じです』って説明するの楽だから、そこまで嫌いじゃないわよ。何より!」

 結の頬から林太郎の手が離れる。

「あたしが呼んでって言ってるのよ。結は特別なの」

 そう言って、林太郎はとても恥ずかしそうに目をそらした。珍しい様子に、『可愛い!』と思ったのと同時に、頬に熱が駆け上る。

「ああもう何恥ずかしいこと言わせてるのよ! ちゃんと呼びなさいよ。呼ぶまで離さないから」

 林太郎の手の平が再び結の両頬を挟む。

「と、特別って、しがないOLだけど」

「何ボケてるのよ。ちゃんと呼びなさい。ほら。『林太郎』」

 林太郎の目に容赦がない。

「り、林ちゃ」

「林太郎って呼ばないとキスするわよ。いいの?」

 結は出そうになった変な声を飲みこんだ。恋人同士なのだからおかしなことではないが、今はまだ早い。心の準備がまったくできていない。

「あたしはどっちでもいいわよ」

 意地悪そうに笑う林太郎に、結は歯がみする。