「母よ。言えばよかったわね。このあいだあたしが風邪ひいたって送ったら、心配して毎日電話してくるようになっちゃって。もう三十だし若くないんだから気を付けなさいって」

「おばさんらしいね」

 笑みがこぼれていた。林太郎の母親は結もよく知っている。

「かけ直すって言ってもすぐかけてきそうだし、結が来たって言ったらまたややこしくなりそうだし。とにかく、ごめんなさいね」

「ううん。大丈夫」

 親しい女の人との電話でなくてよかった、ともやもやしていた自分に、結は自分で驚く。

「もしかして心配してた? 付き合って一か月でほかの女と仲良く電話してる奴はドブに放りこんでやればいいわ」

「だ、大丈夫。林ちゃんはそんな人じゃないと思ってるから」

 意地悪く微笑む林太郎に、結は思いきり手を振った。

 林太郎が穏やかな目で見つめてきて、結の言葉を待っているのだと気付く。