泣きそうだ。

 お正月明けの金曜日、久しぶりに上司に怒られた。会社に勤めて十年になるのに、しっかり怒られた。たしかに非はこちらにあったが、もう少し指示の出し方とか、言い方があったのではないかと、重苦しい気持ちが胸の中をぐるぐるしていた。

 だから、耐えられずにメッセージを送ってしまった。

『今からちょっと会えないかな』

 返事はOK、家にいるから来ていいという。

(お休みだったのかな、悪かったな)

 そう思いつつ、誰かに聞いてもらわなければあふれそうだった。

 そうして、結《ゆい》はインターホンのボタンに指を伸ばした。まだ数えられるほどだけれど、この瞬間は緊張する。マンションの外廊下、マフラーの下で首を縮めながら、ボタンを押した。

 アッシュというのだろうか、灰色がかったベリーショートヘアに、黒のタートルネック、ラベンダーグレーのパンツ。まだ付き合ってから一か月しかたっていない、恋人の林太郎《りんたろう》がドアの隙間から姿をのぞかせた。片手で拝まれて、申し訳なさそうな顔をされる。

「ごめんなさい、ちょっと上がって待っててちょうだい」