楽しい楽しいショッピング。私だって一応伯爵家の令嬢だもん。たまには買い物したっていいよね!

 今日は馬車の中で昼飲みしちゃったけど、店の人にバレるかな。

 幸せ気分で馬車のステップを降りた瞬間、私の周りを突然包んだ神々しい光と霧。

(……眩しい! なんなの?!)


 しばらくしてやっと光と霧がおさまり、徐々に周りが見えてきた。下からゴーって来たから、髪の毛ぐっちゃぐちゃになってない?

 マンホールが開いてたとか?
 あ、この下に地下鉄通ってた?

 原因はなんなのよ、さっきの風。地面が徐々に見えてきたわね。ふむふむ、何かしら。

 ――地面に、魔法陣?!



 それに、霧がはれてきて分かったけど、なんか私の周りに人だかり。
 そして、カツカツと音を立てながら私の方に近づいてくる男。


「聖女様、わが王国へようこそ! さあこちらへ!」

 何? 聖女様?
 こわっ! 笑顔で寄ってくるこの男。

 よく見たらあの、婚約者にも本命にも同時にフラれておまけに呪われてたアルヴィス王太子じゃん。私の顔忘れた?

 あ、忘れてくれてたら好都合なんだけどね。

 怖すぎて一歩後ろに下がると、何かに当たった。振り返って見ると、地面にうずくまる女性が一人。


 うわぁ……

 今日はアレだね。聖女召喚の儀式に居合わせちゃった感じだよね。ガッツリ魔法陣の真ん中で。明らかに、ここにいる人の方が本物聖女じゃん。

 今月はキッツイわぁ。
 こうやって気まずい場面に居合わせちゃうの、一体何度目?

 王太子さん、また何だか勘違いしてますよ!


「殿下、申し訳ございません。私はたまたま通りがかっただけです。本物はこっちです」

 ねえ、聖女様。
 きっと異世界から来て驚いてるんだと思うけど、もうちょい堂々としてよ。私が堂々としすぎてるから誤解をまねくじゃん。

「魔法陣から現れたあなたは、間違いなく聖女様です。さあ、あなたをお連れしなければ、私が叱られてしまいます」

 アンタは一回叱られてこいよ。

 いやマズイわ。誤解を解かなきゃ。人だかりの中に、誰か私のお知り合いはいませんかー?

 って、お父様いるじゃん! さすが!

「殿下。私が聖女ではないことを証明します。あちらにいるのが私の父です」
「え? あれはカカーリン伯爵ではないか?」
「そうです。たまたま居合わせたようです」

 殿下がお父様を呼びました。

「殿下! 娘が失礼をいたしました!」
「お前はカカーリン伯爵か?」
「そうです。私はトーリ・カカーリンと申します。こちらは私の娘のタチアナです」
「なるほど。たまたま通りかかーりんということか」

 おっ。殿下ボケてくるじゃん。ノリツッコミいかないとね。お父様、どう拾うの?

 ……って、ツッコミせえへんのかいっ! 殿下、公開生殺しじゃん!


「殿下、これでお分かりいただけましたね。私は異世界から召喚されたわけでもなんでもない、ごく普通の伯爵令嬢です。それじゃ失礼しますね」

 お父様と一緒に、魔法陣のど真ん中から出ていきます。みんなに注目されながらの退場。緊張するわあー。



「……待ってください!!」

 へっ? まだ私を呼び止める用事ある? よく見たら、呼んだの聖女様じゃん。

「私、突然こんな場所に……怖くて。あなたはここに来て初めて親切にしてくれた方です。どうか私と一緒に来てくれませんか?」

 私、親切にしたっけ?

 あなたのこと、多分足で踏んだよ? 不可抗力とはいえ。それに、初めて親切にしてくれた人っていうけど、あなたココに来たばっかりじゃん?
 鳥のヒナの刷り込みじゃないんだからさ。初めに見た人信じるのやめよう?

 これからもっと親切にしてくれる人、いっぱい現れるって。

「お願いします、タチアナさん! 」
「ごめんなさい、私急ぎますので」
「タチアナさぁんっ……!」


 ……後味悪いな!


「聖女様!」
「はいぃっ」

 私は大きく息を吸ってまくしたてた。

「突然違う世界に呼ばれて大変なのは分かるけど、あなたはそれなりの理由があって呼ばれてるわけ! とりあえずもっと堂々とすれば? そうやってモジモジしてるだけだったら、みんなあなたのこと本当に聖女かなって疑うよ? なんでもいいから、特技とかないの? その特技アピールしちゃいなよ。なんかに役立つかもしれないじゃん!」

「特技……ですか?」

「ほら、よくあるでしょ? 料理が得意なら異世界カフェとかひらけばいいし、掃除が得意ならカリスマ掃除隊とか組織すりゃあいいじゃん。なんかないの? 特技」

「……人を笑わせること……」

「へ?」

「私、ピンは無理なんです! 相方がいないと私のボケを誰も拾ってくれなくて……」


 異世界新喜劇かーい!! やめさせてもらうわっ!