「…だよな。悪かったな、水城。みんなも悪かった。今度からは気をつけるようにする」
拓人を見つめる生徒たちの大半は、穏やかな笑顔で応えてくれていた。
拓人はおよそ半年前まで、隣の市にある私立高校で教壇に立っていた。
その頃ちょうど学校側から、現在のこの高校への転任の話を持ちかけられ、拓人も了承し異動することとなった。
それでも異動に際し、原則として家族や親戚が在籍している学校への教師の赴任や勤務は極力避けられ、実例はあまり多くない。
理由は単純で、身内に対する贔屓や情に流されるなど風紀を乱す恐れがあるため、社会通念上、あまり良い人事とは言えないからである。
だが、この常盤那珂高校の慢性的な教員不足は相当に深刻な問題となっており、その原則を意固地に守っていられるような状況ではなかった。
ここの現校長も、異動前には何度も拓人と面談を行い、彼の人となりだけでなく、紗夜の評判などを見極めた結果、彼が担任を持たないことを条件に、教科担当として採用することにした。
正直なところ拓人自身は、前の学校より通勤にかかる労力が半分以下になることと、慣れ親しんだ校舎で働けることに大きな魅力を感じ異動を決意した節がある。
というのも、実は拓人自身が、十数年前にこの高校に在籍していた卒業生だったのだ。
教鞭を振るう、教師としての拓人。
彼は長年教師という仕事をしてはいるが、自分がまだまだ半人前だと自覚し、謙虚さと初心を忘れることなく、どんな生徒に対しても傲るような態度をけっして取らない。
そして歳や感性も生徒逹と比較的近いこともあり、多様な面で彼らの立場に立った考え方や捉え方ができる、比較的まれな教師だった。
そのため、時折このような小さな不祥事を起こすこともあったが、生徒達からも好感が持てる教師として、とても慕われていた。

