「ここならいいか……」
人目につかない裏庭に移動した夜明さんは、そう言って精神を集中させるように息を吐いた。
夜明さんの周りに風が吹き、一瞬にして景色が変わる。夜明さんが移動したのは、寮部屋のリビングだった。
何度目の当たりにしても、瞬間移動には慣れない……。
こんな非科学的な能力が、現実なんて……。
でも、今はその能力に驚いている暇もないほど、自分の身に起きたことに戸惑っていた。
「あの……一体、何が……」
そっと私をソファに座らせてくれた夜明さんは、私と視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
きっと私が酷く動揺していることに気づいて、安心させようとしてくれているんだと気づく。
「鈴蘭……深呼吸だ」
私の頬に手を重ねて、そう言った。