二枚目俳優と三連休

 お母さん…私、本当に好きな人ができたみたい。

 翌日。高柳は予定していた打合せの他にもう一つ仕事が入った。早朝から出かけて、夜、帰ってくることになった。さなえは本を読んだり、DVDを観たりして過ごした。そして夕方、冷蔵庫にあったもので料理を作り、ささやかな宴席を作った。
「魚料理以外もできるんやな」
 と高柳も驚いていたので、してやったりだった。夕食後のイタリア語講座もつつがなく済んだ。
 玄関脇には、さなえのバッグなど荷物が置かれている。明日の早朝、高柳が車で、さなえの部屋に送ることになっていて、もう住所もナビに入れてある。
「イタリア語も習ってみたら面白かったわ。なんでもやってみらんとわからんな」
 そう言って、高柳がテーブルから立ち上がろうとした。脇にいたさなえは、思わず、高柳のシャツの裾をつかんで言った。
「た、高柳さん、4回目の講座もしませんかっ」
「え?」
「だ、だからっ、3回で終わるの、もったいないじゃないですか。こんなのイタリア語の初歩の初歩ですよ。もっとイタリア語の奥行きの深さを学んでほしくて」
「…伊藤さん」
 高柳の呟きに、戸惑いが滲んでいるのがすぐにわかった。ここで言えなかったら、もう言えない。
 今日は、高柳がずっと側にいなかった。DVDも本も、上の空になるくらい、高柳のことを考えていた。今日を限りに高柳に会えなくなるかもしれない。そんなのは嫌だ。どうしたらこれからもずっと、高柳に会えるんだろう。その方法を、さなえなりに、ずっとずっと考え続けた。そして、思いのたけを伝えるしかないという結論に達した。
「会いたいんです。高柳さんにもっと会いたいんです。もう終わりなんて、嫌なんですっ…!!」
 渾身の、生まれてはじめての告白だった。少しの間が空き、高柳が言った。
「伊藤さんはあれや。芸能人に会ってぽーっとなってるだけや。君とオレ、16も年が違うやんか。こんなおっさんはやめとき」
 シャツの裾をつかんで俯くさなえの頭を高柳がぽん、と叩いた。水をかけられて出会った時の記憶がかする。さなえの涙腺がぶわっと壊れた。
「そんな浮ついた気持ちなら、好きだなんて、言いませんっ…!!」
 気がついたら、走り出していた。玄関先のバッグを持ってマンションの部屋を飛び出していた。