二枚目俳優と三連休

 照れくさそうに、高柳が言う。今回もさなえはきゅんとしてしまい、缶ビールのプルトップを慌てて引いた。2人でごくごくと喉を鳴らして飲んで、美味しい、と微笑みあうと、高柳が、そういえば、と言った。
「一度きこうと思ってたんやけど。伊藤さんは、どうしてイタリア語の勉強を続けられたん?普通、他の事に興味がいったりするやろ。でもずっと勉強してたって言ってたよな」
 高柳が、自分に関心を持ってくれたことが嬉しい。それは、とさなえは語り始めた。
「子供の頃、イタリアで過ごした思い出は、まんま亡くなった母の思い出と重なるんです。だから…イタリア語を忘れなかったら、母のことも忘れないような気がして。それに、私がイタリアの幼稚園に入園するときに、母は一生懸命、私にイタリア語を教えてくれたんです。その一生懸命さが一番の思い出で…そんな事もあって、私自身、誰かにイタリア語を教えたかったのかも」
 そうやったんや、と高柳が頷いた。納得した、という顔をしていて、さなえは、言うつもりもなかった父のことを口にしていた。
「…実は、母に知られたら、怒られそうなことを、していて」
「うん?」
「父に、恋人ができて、それで私、大学卒業してすぐに家を出たんです。独り暮らしがしたいからって、言って。でも本当は、父と、父の恋人から逃げたんです。受け入れることができなくて」
「ああ…それで。仲がよさそうな父娘なのに、何で一緒に暮らしてへんのかな、とは思ってたわ。なるほどね」
 さなえは、きゅっと唇をかんだ。
「母は私が逃げたことを知ったら。怒るんじゃないかな。何で2人を認められないのって」
 心の奥底にしまった、瞬にも打明けていない想いを言ってしまった。誰にも言えずにいたのに。
「そんなことないやろ。受け入れられへんのは、伊藤さんがお父さんを大事に思っているからや。それに…ほんまはもう受け入れてんのと違う?ほんまは、大丈夫なんやろ?」
 図星だった。本当は父に言いたかった。お父さん、私はもう大丈夫だから、幸せになって。言い出すタイミングがつかめなかっただけだ。心は決まっていたのだ。
 言い当てられて、さなえは戸惑った。そのまま言った。
「どうして…わかるんですか?」
「だって、君みたいな優しい子がお父さんの幸せ願わんはず、ないやん」
 当たり前のように、さらりと言った。さなえは、言葉に詰まった。心臓が高鳴る。