二枚目俳優と三連休

 ソファテーブルの上のDVDのパッケージを見て高柳が言った。
 そうなんです、とさなえは鼻をかんだ。さらにお腹がぐう、と鳴った。
「泣いてて腹がへってたらつらかろう。今夜はすき焼きにするでえ。牛肉嫌いとかないよなあ?」
 さなえは、思わず、はい、と大声で言ってしまった。
 結局、すき焼きを食べながら、またしても映画の話になってしまった。高柳のセレクトは抜群で、どれもこれも引き込まれた。
「高柳さんが、人生の半分損する、って言ってた意味がわかりました」
「そらよかった…ほら、どんどん食え」
 高柳がさなえの器に肉を入れてくれる。お腹はすいていたし、最高級のお肉で、天にも昇りそうな美味しさだった。そろそろシメにするか、というところで、あの、とさなえが改まった声を出した。
「高柳さんの、映画も観ました。すごく、よかったです」
「えっ」
 高柳が目を見張った。自分の出ている映画を観たとは予想外だったらしい。
「『峠の勇者たち』を観たんですけど、脚本が素晴らしくて。それに…高柳さんには、ちゃんと穴があるんですね」
「あな?」
「はい。その役柄がするっと入ってしまうような、穴です。私、観ている最中、高柳さんが主役の牧田志郎そのものに見えました。なんていうのかな…高柳さんと、牧田志郎の間に1ミリも隙がないんです。高柳さんが演じてるって分かっているはずなのに、映画の間中、牧田志郎にしか見えないんです。すごく不思議でした。他の役者さんは違うんです。誰かの役を演じてるんだな、って気がする。そういう人には穴がないんです。役柄を注ごうとしても、きっとこぼれちゃう。でも、高柳さんは違うんです。牧田志郎の穴があって、そこに注いで、ぴったりジャストに収まってるんです。ええっと、こういうのをはまり役、って言うんでしょうか」
 高柳は、さなえが言うのを聞きながら固まっていた。すぐに返事がくると思ったらこない。さなえがきょとんとしていると、高柳が目を伏せた。
 よくよく見ると、耳が真っ赤になっている。
「そんなん…殺し文句やん…!」
 いつも声の大きい高柳が小声で言った。
 そんなに恥ずかしいんだ。
 さなえは、自分が高柳の感情を動かせた事に驚いていた。そしてまた別の感情も心の奥底からせりあがってきた。
 男の人だけど、うんと年上だけど、この人って、この人って…