二枚目俳優と三連休

 エレベーターが到着し、高柳の部屋にまた入っていく。
「それがその…大好きな本の原作の映画があって。ものすごく楽しみで友達と一緒に観に行ったんです。そしたら原作と全然違うストーリーで。しかも絶対聞きたかった台詞もなかったんです。それ以来、映画嫌いになってしまって」
「ああー、それな。あるよなー。原作と違ってがっかりってね。わかるわ。でもな、伊藤さん。作ってる方は必死やねん。誰も面白くない映画にしようなんて思ってないねん。皆どうやったらガツンとかませるか、考えててな…俺という役者も、そう思ってんねん」
「あ…」
 そうだった。高柳は役者で作る側なのだ。現場の大変さが身に沁みているのだろう。間接的にだが、高柳も関係している映画をディスってしまった。
「ごめんなさい、私…」
「いやいや、謝らんでええよ。っていうかさ、あのー、俺も『グラン・ブルー』観たいんやけど」
「えっ」
「あ、君のゲストルームでやないよ。このリビングで、や。どう?独りで観る方がいい?」
 時計は、10時を指していた。映画が2時間くらいあるのは知っている。12時に終わるなら、寝オチすることもないだろう。
「ここで、観ます…」
 そう言うと、高柳は嬉しそうに笑った。
「映画好きの奴はなあ、ポップコーンを箱買いするんやで」
「本当ですか?」
「ウソです」
 さなえがもう!と言うと、高柳は、伊藤さん面白いわ、何でも信じるんやなあ、と笑いながらポップコーンの大袋を持ってきた。箱買いではなく、戸棚の中にあったようだ。さらにカフェオレボウルを二つ、ソファテーブルに置き、それにポップコーンを入れた。
「はい、伊藤さんの分」
 ポップコーン入りのカフェオレボウルを手渡される。いつのまにか炭酸水のペットボトルも2本、置いてあった。
 ソファに座りながら、さなえはポップコーンとペットボトルをじっと見つめた。
 慣れてる…なんか、手際がいい。
 その視線に気づいたのか、高柳が鷹揚な声で言った。
「あ、ふだんから女の子とこんなことしてるんやないんやで。もっぱら野郎友達。オレの部屋、自分で言うのも何やけど、綺麗やろ。せやからリピーターが多いねん。先月引っ越してきたけど、もう4、5回は友達泊めたなあ」