声が震えつつも歌い切った俺。

気づけば曲が終わっていた。


会場を見れば、指で涙をぬぐっている人の姿が見えた。

……俺の歌が、届いたのかな。

会場をよく見れば、涙を流している人は一人だけではなかった。

ちらほらと洋服の袖で目元を覆っている人がいる。

俺の歌が届き始めている証拠のなのかもしれない。



「次の曲は……」



俺は歌い続ける。

このライブで歌う曲は全部で5曲。

ときどきトークを挟む。

……といっても、どんな過程で曲を作っているのかとか、大切な人と別れてしまったその時の想いとか。

その大切な人と再会できた話とか。

ほとんどが佳奈の話だ。


このライブが終わったら佳奈に怒られるんだろうな。

『もっと、聴いてくれている人へのファンサービスをして』って。


だけどね、佳奈。

俺は佳奈の存在があるから曲を作れているんだ。

その曲の作った経緯を話しているだけだよ。

俺の想いが詰まった曲や話が多くの人に届いて、その人が大切な人のために動く原動力になればいいなって思う。


俺の想いで、このライブハウスを震わせたい。

そう強く願って俺は無事にライブを終えた。