俺が私服でステージに立つのも、チケットが無料なのも全てに意味がある。

私服でここに立つのはありのままの俺を見て欲しいから。

チケットに料金がかからないのも、少しでも俺の歌に触れる人が増えて欲しいから。

俺の今の使命は、このライブを盛り上げるだけだ。



「初めまして、藤崎 悠です! 今日は俺のライブに来てくださり、ありがとうございます!」



マイクを通して俺の声がライブハウスに響く。

初めての感覚に心が躍る。



「最初に歌う曲は、別れた彼女を想って作った曲です。俺の歌手人生を切り開いてくれた曲でもあります。……聴いてください」



俺はオーディションでうたった歌をうたう。

静かで切ないメロディ。

だけど、佳奈への想いは強くて、あのときの感情を思い出す。


寂しくて、不安で、眠れなかった夜。

佳奈のことが恋しくて、失ってから初めて気づく本当に大切な存在。

もう一度、会いたい、触れたい。

それでも前に進むことしか出来なかったあのときのことを思い出して、俺は涙腺が緩くなった。