「あんたが深山 佳奈さんか」



背後から声を掛けられ思わず肩を跳ねさせる。

慌てて振り返ると、そこに立っていたのは身長190センチあるだろう、体格の良い男の人だった。

睨みつけているのかと思うくらいの鋭い目。

愛想のない表情。

一瞬怯んでしまいそうになるけれど、これは仕事。

それに人を外見で判断しちゃいけないよね。



「初めまして。深山 佳奈と申します。隣が藤崎 悠です」

「藤崎です。この度はよろしくお願いいたします」



そう言って私たちは軽く頭を下げた。



「……熊山です」



熊山さんはそれだけ言って口を閉ざした。

無言の空気が流れ始めたとき。

私は手提げの紙袋から、包装紙に包まれた手土産を取り出す。



「これ、お口に合えば嬉しいです。ぜひ、スタッフの皆さんで召し上がってください」



熊山さんは少し驚いた様子だったけど、お土産を両手で受け取ってくれた。

小さく『ありがとう』と呟いたその言葉は、はっきりと聞こえた。