頭を下げたまま顔を上げない俺の耳に聞こえてきたのは、手を叩く音だった。

ゆっくりと上半身を起こせば、坂本さんを中心に審査員の方々が拍手をしてくれている。



「え……」



戸惑う俺に、坂本さんは席を立ちあがった。



「素晴らしい演奏だったよ。……いや、演奏だけじゃない。藤崎くんの大切な人を想う気持ちがとても伝わってきて素晴らしかった」

「ありがとう、ございます……」

「それにしても、今日はラフな格好だね? 何か理由でもあるのかい?」



……今日は?

前回の服装は確かに、自分には似合わないような服装をしていたと思うけど……。

坂本さんはもしかして、俺が前回のオーディションを受けたことを覚えているのか?


俺は疑問に思いながらも答えた。



「別れた彼女が選んでくれた服なんです。……俺自身気に入っているし、忘れられない思い出の一つです」

「そうか。……等身大、ありのままの君を見ることができて、私は嬉しいよ」



坂本さんはそれだけ言って、椅子に座りなおした。

俺はもう一度審査員の方々に頭を下げて、ステージを降りる。


心が、温かくなっているのを感じた。