「今度のオーディションではさ、」

「……」

「佳奈ちゃんに届けろよ」



そう言って先輩は自分の持ち場に戻っていった。


届ける、か。

今度オーディションが開催されるなら、俺はエントリーするのだろうか。

もし、またオーディションにエントリーするなら、あの審査員の坂本さんがいる場所がいい。


……確かに今の俺は中途半端だった。

認めたくないけど認めるしかない。

でも、その“中途半端”を見抜いた坂本さんがいるところのオーディションにだったら。


……エントリーしたい。

もう一度、挑戦したい。


悔しいから、認められたいからとかじゃない。

なんとなくだけど、坂本さんに認められたら、佳奈にも届くような気がするんだ。


俺に少しずつやる気が戻ってきたのを感じる。


もう一度、オーディションを受けよう。

いや、佳奈に想いが届くまで何度だってオーディションを受けよう。