「他に好きな人ができたの」

「え……」



静まり返る部屋。

目の前には『信じられない』というように目を見開いている悠が立っている。

先ほどまで言い争っていたなんて信じられないほど、静かな空間。

聞えるのは、置時計の秒針の音と、悠が息をのんだ音。



「だから、私とは別れて」



テーブルを挟み、向かい合ったままの私と悠。

悠の瞳が揺れている。

じんわりと赤くなった目が切なくて、心が痛くなる。


ああ、だめだ。

私まで泣いてしまう。


私は悠の横をすり抜け、隣の部屋に行く。

お財布と携帯が入った鞄を持って、玄関へ向かう。


悠の足音が聞こえる。

玄関で履きつぶしたような靴を履いていると、背後に悠の気配を感じる。



「……本気なのかよ?」

「うん」



本気。

そう。

私はもう戻らないんだ。

悠のもとへは戻れないんだ。


だから最後に、これだけは最後に伝えたい。