「俺と、嘘結婚して欲しいんだ」
「それって、嘘で結婚して、皆を騙すってことですか?」
「そうだ。詐欺だけど、金をとるわけじゃない。加担して欲しい」

 提案が提案なので、しばし考えてしまった。
 と言うのも、嘘をつくのはすごく苦手だ。
 

「家が決めたから、嘘を吐いて欲しいだなんて……こんな嘘、つけるのか」

 私は我ながら一途だと思う。
星空が好きになったときには、朝も夜中もずっと空のことを考えて居たし、ずっとドキドキしていた。
 百科事典が好きになったときもずっとそうだった。
……だけど、好きは、一度に一つか、二つか、そのくらいしか持てない、と思うのだ。
そこに更に誰かを想うとか誰かについて考えるというのが入ると頭が真っ白になったかもしれない。
学校に行っていた時は良かった、勉強とか部活とか、好きな物がそれだけでもあれば、集中したいんだ、が切り札に使えたし、自由な恋愛が出来た。

「人と、物と、同時に好きになることなんて出来るのでしょうか」



   寝る前の習慣、テラスでカフェオレを飲みながら、ぼんやりとぼやいていた。
  先日お見合いで知り合った畔沼さんが、突然そんなことを言い出した。

お金持ちでルックスが良くて、でも、なぜ私にと思っていたんだけど……

「君の家は調べてあるんだ。お互いに好都合だろ?」

彼は、狙いを付けて来た上で、私に提案していた。
事情はあるけれど。
(それにしても……)

そういう嘘って苦手なんだよね。どうしよう。
いや……待てよ?
確か、言ってたぞ。
「家を守りたいんだ」とかいうセリフを思い出す。

もしかしたら……

「家が好きなら、家とつき合えばいいじゃない!」

そう。畔沼さんの家そのものと、彼が突き合えばハッピー!




 さっそく、家そのものを畔沼さんと付き合わせるべく、生き物にする計画が始まった。