「酔っぱらった(かえで)は、非常にタチが悪い」

これが、斗悟(とうご)さんの口癖だった。

「一緒に飲んでいる時は量をコントロールしてやれるが、仕事先の飲み会なんかだったら最悪だ。人のいいお前は、周りに合わせてどんどん飲んでるんだろ。酒を覚えたばっかりのくせに」

煙草に火をつけて、彼は忌々しそうに口の端に咥えた。

確かに、わたしはついつい杯を重ねてしまう方だと思う。まだ新入社員だし、みんなでおしゃべりするのも楽しいし、あんまり無理してるつもりはないんだけど。

今も、お水の入ったコップをぐいっと渡されて、
「早く飲め。明日の朝、多少はマシになるから」と
無理矢理口へと持っていかされた。彼の大きな手に包まれていた小さなコップは、わたしの手のひらのなかだと普通の大きさだ。わたしは目をぱちくりさせる。

「とうごさん、手、おっきいね」
「はぁ? なに馬鹿なこと言ってんだ。早く飲めっつの。……まったく」

アイツもなんでこんな小娘俺に預けてイタリアなんか行くんだよ! と彼はため息混じりの紫煙をふうっと吐いた。