張りつめた空気が緩むように、体のこわばりが解けた。

「ありがとう」

 偽りでも、主への忠誠でも。

 初めて、こんなに近くで触れられた。鼓動が痛い。キトエの言葉に、瞳に、とらわれてしまった。嬉しいと思ってしまった。

 同時に、逃れられない悲しみと恐怖がわき上がる。

 花と空の色がつながった水色の中に、ずっとこのままいられたら、どんなにか幸せだろう。

 喉からあふれ出しそうになる感情を、飲みこんだ。



 城はとても古かったが、定期的に手入れされているようだった。

 リコとキトエは食堂に移動して、やったことのない料理をした。食材は事前に運びこまれていたが、料理をしたことのないふたりなので、具材の大きさはばらばら、硬い、焦げる、味が濃すぎると散々なものができあがった。今後の料理も先が思いやられる。

 けれどリコは、とても楽しかった。とても幸せだった。



 酷い夕食を何とかたいらげたあと、ふたりで庭へ散歩に出た。