「全然。まったく考えてなかったよ。その前に結界が作り話だって思ってたから逃げる準備はしてたけど」

 今キトエが持っている地図は、リコが城に入るときに持ちこんだもののひとつだ。

「でも結界が本当だって分かって、逃げる方法を考えたけど何も浮かんでこなくて……魔力が戻ったときはびっくりした。生贄の資格を失ったことが理として通用するとは思ってなかったから。でも魔力が戻っても、わたしの魔力で城の結界を壊せる保証はなかった」

 いつの間にかリコのほうを向いていたキトエに、微笑みかける。

「ありがとう。信じてくれて。もう絶対離さないでね」

 結界の中でのことを思い出したのか、キトエは恥ずかしそうに唇を引き結んでそっぽを向く。「当たり前だ」と呟く。リコは穏やかに笑ってしまう。

「すごく遠回りしたけど、お互い好きでよかった」

 勇気を出して今の気持ちを言葉にしたのだが、キトエはどこか沈んだ顔付きをしていた。にわかに不安になる。

「もしかして好きじゃない? うそだった?」

「違う、そんなわけないだろ! 愛してる、ずっと前から」

 途中で恥ずかしくなったのか、顔をそらされてしまった。