耳をつんざく大木をなぎ倒すような音とともに、赤い光の壁に亀裂が入る。広がっていく。

 薄紫色の中で、ガラスが割れるように、赤い光が砕け散った。

 たゆたう薄紫から、赤い欠片がゆっくりと降ってくる。うそのように、静寂に包まれる。

 呆然と仰いでいたら、抱きしめられて、その腕が痛いほど強くて、力の入らない体をよじる。

「痛い、キトエ」

 気付いたように腕が緩んで、キトエの顔を見ると、瞳いっぱいに涙が浮かんでいた。濡れた黄緑の瞳は虹色が大きく揺らめいて、何て綺麗なのだろう、と場違いにも思ってしまった。

 キトエの綺麗な顔がぎゅっと崩れて、金の翼に水色の宝石が下がったピアスが揺れる。また抱きしめられて、キトエの背を抱きしめ返した。

 割れた満月が浮かぶ紺の空に、赤い光が降る。

「ありがとう」

 今度はちゃんと、届いたはずだ。



 空の群青が薄くなり始めている。

 リコは眼下に目をやった。渦巻く切り立った岩肌の道で、道とは呼べないほど凹凸が激しく、傾斜が強く、ふたり並べるかという幅しかない。城を出てここまで登ってきた風景は、らせんのようだった。