キトエは何も間違っていない。キトエは自分の命はリコのものだと言うけれど、キトエはリコのものではない。

 リコは立ち上がって、色ガラスの散らばった濃紺のじゅうたんから剣を拾い上げた。魔力の尽きた体では、両手で柄を持たなければ持ち上がらない。キトエがリコをかばったときに離したのだ。剣は騎士の命だというのに。

 リコは剣をキトエの前まで運んで、ひざをついた。両手で持った柄を、キトエへさし出す。片ひざを立てたままのキトエが両手で柄を受け取るとき、手が触れた。驚いたように見つめられる。

 柄を握った両手が、震えていることに、気付かれてしまった。

「怖い」

 言葉があふれていた。

「怖いの。本当は。ずっと何でもないように振るまってきたけど、生贄に選ばれたときから、ずっと。ここに来て、一日すぎるたびに、叫び出しそうになるくらい、すごく」

 リコはキトエの手と触れていた柄から手を離した。キトエは受け取った剣をそのまま濃紺のじゅうたんへ置いた。