リコは寝室の窓際に座って空を仰いでいた。見事な満月の光が部屋の中まで降り注いでいる。

 明日、月がふたつに割れる。昼間、リコを仰いだキトエの、驚きに満ちた泣きそうな顔を思い出す。抗えない感情がこみ上げてきて、腕をきつくつかんだ。

 悲しい。怖い。時間は平等にすぎ去っていく。止めることはできない。何も浮かんでこない。怖い。死にたくない。選ばれたくなかった。選ばれない未来があったなら。意味のないことを考える。逃げられない感情がただ迫ってきて飽和して、朽ち果てる。そうしてまた叫び出しそうな感情が蘇っていっぱいになって、疲弊した心が壊れる前に感情が朽ちる。繰り返す。

 死が確定した明日なら、最後にひとつ、キトエに言いたいことがあった。命令しても、絶対に従わないと分かっている。だからこそ、拒絶されて、ひとつの希望も残さず絶望して、恐怖が絶望に覆い隠されたなら生贄の末路をたどろう。

 いつか必ず別れが来るとしても、主と騎士のままで変わりない日々を送れるだけでよかったのに。それ以上は望んでいなかったのに。

 キトエと、もっと一緒にいたかった。

 キトエの前では決して見せないようにしてきた涙があふれ出して、こみ上げてきた声をかみ殺した。