泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


夕方までは夏休みの課題をしたり、テレビを見たり部屋を軽く掃除したりしながら過ごした。


「じゃあちょっと行ってくるね」

「日が長くなったからってあまり遅くはならないようにね」

「はーい」


約束の5時前。
玄関でスニーカーのつま先をトントンと床に当てる。
白いTシャツにショートパンツというラフな格好はあまりにも洒落っ気がないと思ったけれどどこかへ出掛けるわけでもないのにお洒落をしていく方が不自然な気がしてやめた。

「いってきます」と告げて玄関の扉を開ければ、むわんっとした夏特有の蒸し暑さが襲ってきて顔を顰める。

だけどそんな暑さよりも拓海に会いたい気持ちの方が強くて私は軽い足取りで海までの道のりを歩く。

彼がどんな人なのか分からない。

どんな会話を交わしてどんな時間を過ごしてきたのか覚えていない。だけど写真で見る二人はとても楽しそうで、早く彼に会ってみたいと思った。

逸る胸を抑えながら歩く事数分、すぐに海が見えてくる。

防波堤のある方へと目を向ければそこには人影があり、一気に緊張感が増した。

きっと彼が拓海に違いない。

青と黄色と薄紫色のグラデーションを作る空はとても綺麗で、柔らかい陽の光を浴びながらそこに腰を下ろしている彼にドキドキしながら近付いた。