その後はのんびり過ごしながらお昼はお母さんと一緒にそうめんを食べた。
「今日は海見に行かないの?」
食べ終えた食器を片付けているとお母さんが不思議そうにそう言うので、私は「どうして?」と首を傾げる。
「佳乃はいつも放課後は防波堤で海を見てるのよ」
「そうなの⋯?」
「小さい頃から海が好きだったからね、佳乃は。やっぱり好きなものは好きなのね」
そう言いながらお母さんは「最近は、」と優しげな瞳を細めて笑う。
「そこで友達と会っていたみたいだから、今日は会わないのかな?って」
「友達って⋯、拓海のこと?」
「名前までは知らないけど男の子だって言ってたよ。それにほら、この前連絡先も交換したんだって言っていたじゃない」
「⋯」
私にはお母さんとそういう会話をした覚えはないけれど、お母さんが言うならしたのだろう。試しにスマートフォンを開いてみれば、メッセージアプリの数少ない私のフレンド欄には<坂口拓海>という親族とは思えない名前が一つあって。
「佳乃ね、その子といると楽しいんだって言ってたよ。今日約束してないならいいけど、試しに連絡してみたら?月曜日だし、彼は佳乃からの連絡待ってるかもしれないし」
「⋯してみる」
「うん、そうしなさい」
お母さんに言われ、ドキドキしながらその名前をタップする。
私は彼とどんな風に話していたのだろう。
連絡するって言っても何て送ればいいの?
迷いながらも、今朝見た写真を思い出せば彼と壁がある様には感じなくて、そりゃ友達なんだから当たり前なのかもしれないけど変に取り繕うよりはそのままの私で連絡してみたらいいんじゃないかという考えに至った。
<こんにちは、佳乃です。
もし、今日暇だったら防波堤で会いませんか?風が涼しくなる5時頃に待ってるね>
敬語とタメ語が混ざった、一方的な短文。
だけどこれが今の私が送る事が出来る精一杯だった。
よし、と気持ちを決めて送信をした後、ドキドキを落ち着ける様に息を整えていればトーク画面を開いたままだったせいでポンッと送ったメッセージに既読が付いた瞬間を目撃してしまう。そしてやばっと思っている間に返事は来てしまって、つまりそれは彼が送ったメッセージを私が一秒も経たずに見たという事が彼に知られてしまったという事。
これじゃあ、スマホに張り付いて返事を待っていたみたいだ⋯と恥ずかしくなりながらも<会いに行く>という私よりも短いその返事に心がぽわぽわとした。



