泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


アラームの音で目が覚める。

時計はきっかり8時を指していて寝坊していない事を確認しながらゆっくりと準備を始めた。

夜にかいた汗を流す為にシャワーを浴びた後リビングに行けばお父さんとお母さんがのんびりとテレビを見ていて、彩乃は休日の今日も朝早くから部活に向かったらしかった。


「おはよう佳乃。朝ごはんコーンフレークならあるから食べてね」

「うん、分かった」


拓海と昼食も食べる事になっているから昨日のうちに朝ごはんは軽いものがいいと伝えておいたので、私はキッチンに向かいボウル型の皿と牛乳、そしてコーンフレークを手にしてダイニングテーブルに座る。

冷えた牛乳はとても美味しくて、シャワーを浴びたおかげもありすっきりとした朝を迎える事が出来た。


「お、佳乃。どこか行くのか?」

「友達と出掛けるらしいわよ」

「友達⋯?おお、そうかそうか」

「もしかしたらデートかもしれないけどね」


コーンフレークを食べる私の方へとテレビから視線を移したお父さんに答えたのは私ではなくお母さん。

それもからかう様な事を言ったせいでお父さんは「で、でえと⋯?」とカタコトで目を見開いてしまった。


「お母さん、適当な事言わないでよ」

「ふふ、ごめんごめん」

「お父さんも本気にしないでよ」

「え、⋯あ、ああ。そうだよな、冗談だよな⋯?」


楽しそうに笑うお母さんと今までに見た事のないくらい慌てふためくお父さんに私はもう何も言わずにコーンフレークを咀嚼する。

お母さんの冗談は呆れてしまうけれど、デートという単語にドキリとしたのは事実。

拓海とは友達だし、友達として今日も誘ったわけだけど、振り払っても振り払っても頭の隅にはデートの文字が浮かんできてしまっている。

もちろん、下心はない、と思う⋯のだけど、男の子と二人でお出かけという事が嫌でもデートの文字を頭に浮かべてしまうのだ。

デートなんて気持ちで来られても拓海はこまるだろうし、私だって拓海を好きだとかそういうのではない⋯はずで。もちろん友達としては大好きだけど。

だからコーンフレークをデートの文字だと思ってガリガリと噛み砕く様に咀嚼した。