泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


翌日からも拓海と放課後に会って、他愛ない会話を交わす。

青い空の下でアイスを食べて夕凪を眺めて別れる。

終業式も終わった金曜日、いつもの様に拓海と別れて帰ってきた後。
お母さんに「最近帰りが遅いんじゃない?」と言われてしまう程拓海と過ごす時間は楽しくて、きっとそれはお母さんも気付いているから「あまり遅くはならないようにね」と言いつつも「最近の佳乃はよく笑う」とも言ってくれた。

そう言われて初めて気付く、自分の笑顔が増えたという事実。


「ねぇ、お母さん」

「なぁに?」


私の好物らしい唐揚げ作りを手伝いながら問いかけた私にお母さんはジュワジュワと食欲を唆る音を立てながら鶏肉を揚げながら返事をする。


「最近笑顔が増えたねって言ってくれたでしょ?」

「ん?うん。そうね」

「それってね、友達のおかげなんだ」

「そう」

「私、今週凄く楽しいの。毎日放課後に会ってるんだけど、一緒にいて落ち着くしいっぱい笑ってる」

「えぇ」

「土曜日も出掛ける約束してて」

「うん」

「凄く、楽しいの」


お母さんはただ相槌を打ちながら、話を聞いてくれている。だから私も自分の気持ちをお母さんに話しているんだけど、ある種独り言の様に言葉に出す事が出来た。


「⋯⋯記憶を失っても楽しいと思える日がくるんだって、初めて知った」

「⋯」

「もしかしたら過去にも楽しいと思っていた日々があるのかもしれないけど、きっと最近までの私はあまり明るい表情をしてなかったんでしょ⋯?だから、どちかと言うと私の毎日は辛い事が多かったのかなって」

「⋯えぇ」

「だけど今は私、凄く楽しくて。お母さんに笑顔が増えたって言われるくらい笑ってるんだと思う」


今だって辛い事はあるし、来週になったらどうなってしまうんだろうって不安はある。

この楽しい気持ちも来週には忘れてしまう事が怖くもある。

だけど、それでも今私は楽しいんだよってお母さんに伝えたかった。