泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


「来週、もう夏休みになるでしょ?」

「ん?⋯うん。ちょうど金曜が終業式だから土曜から夏休みだけど」

「私の学校もそうなの。だから、」

「うん」

「だから、あの、ね⋯」


じんわりと自分の手のひらに汗が滲んでいるのが強く握りしめたせいで分かった。


「あの、」

「うん」

「土曜日、もしも予定がなかったらでいいんだけど⋯」

「うん」

「一緒にヒマワリ、見に行かない?」


たったそれだけを言うのに一体何秒かけたんだってくらいに言い出せなかった言葉は、波の鼓に掻き消されてしまいそうな程小さくて。
ちゃんと私の声は届いたのかな?と不安になって「あのっ」ともう一度同じ言葉を発しようとした瞬間、私の視界は嬉しそうに笑う拓海でいっぱいになった。

いっぱいになっというのは、拓海が顔を寄せたわけでもなければ顔が大きくなったという意味でもなくて、拓海以外の光景が霞んだという事だ。

後ろの方にあるテトラポットも、視界の端に映る海でさえも、全部が霞んでただただ拓海の太陽の様な笑顔だけが輝いていた。


「それ、何でも言う事を聞かせる権利で使っちゃっていいの?」

「え?」

「そんなの無くても俺、佳乃とヒマワリ見に行きたいし夏休みも会いたいんだけど」

「っ」

「後からなかった事にするとかナシだかんね」

「っ分かってる!なかった事になんかしない!」

「じゃあ、約束」

「土曜日、ヒマワリ行ってくれるの?」

「当たり前じゃん」


どうしてさっきまであんなに緊張していたんだろうって不思議なくらい拓海は私の誘いに快く頷いてくれて、安心というよりは嬉しい気持ちが湧き上がってくる。