泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


「分かった。いいよ、連絡先」

「本当に?」

「うん。その代わり、また来週もここに来てね」

私がそう言うと彼はふにゃりと笑った。

「来るよ。必ず来る」

「約束だよ?」

「うん。約束」

指切りの代わりに私のスマートフォンには拓海の連絡先が登録される。
まだちょっと怖さはあるけれど、拓海と繋がっているという証拠がある事は嬉しかった。


「ところでさ、前に佳乃と約束した事があるんだけど」


満足そうにスマートフォンを見つめた後、それをポケットにしまった拓海がさっきとはまた違う表情で笑う。
それは正に悪戯を仕掛けた子どもの様な笑みで、とても楽しそうに。


「約束?」

「うん。先にアタリが出た方の言う事を何でも聞くって約束」

「そんな約束したの?私と拓海が?」

「そうだよ」


何でも言う事を聞くなんて小学生の様な下らない約束だと思った。だけど下らないはずなのにワクワクした。


「しょうがないから佳乃の言う事なんでも聞くよ」

「本当に何でもいいの?」

「予定では俺の方が先にアタリを出すはずだったんだけどな。ま、仕方ないから聞いてやるよ」


公平な勝負なはずなのにどこか偉そうにそんな事を言う拓海に笑いながら、私はどうしようか考えた。

そんな勝負の約束をした記憶はないから何かを考えておいているはずもなくて、いきなり何でも言う事を聞くと言われても簡単には思いつかない。

そんな中で一つだけ思いついた事があって、だけどそれを口にしていいものかは悩ましい。


「⋯本当に何でもいいの?」

「俺に出来る事なら」

「本当の本当に?」

「佳乃は俺に何をさせようとしてんの?」


「腹踊りとか、一発芸とか?」とクスクス笑っている拓海は、そうだと言えば本当にやってしまいそうな雰囲気を出しているから慌てて首を振った。


「違う、違うよ」

「うん。じゃあ何?」

「⋯⋯来週、」


柔らかい笑みを携えたまま小首を傾げる拓海におずおずとゆっくりと口を動かす。