泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


「俺はさ、まだ佳乃と出会って長いわけでもないし、まだまだ知らない事も沢山あると思う」

「⋯うん」

「だけど少しずつでもその隙間を埋めていきたいんだ」

「⋯」

「佳乃と心を重ねたい」

「心を⋯?」

「うん。心を」


心を重ねるという意味をまだ知らない私は、潮鳴りを聞きながらただ拓海を見上げていた。

友達になる事も誰かを好きになる事も深く関わり合う事もほとんど初めての中で、彼の言う心を重ねるという事がどういう事なのか想像すら出来なくて。

それでも何故か優しく温かい気持ちになったのは、彼と心を重ねたいと思ったからだろう。

具体的にに何をすれば、どう感じれば心が重なるのだろう。それすら分からないのに、きっと誰かと心が重なるってとても幸せな事なんだろうって思った。


「俺は佳乃のこと、全部受け止めたい」

「っ」

「佳乃が忘れてしまってもそれでも傍にいたいって思うから」


どうしてそんなに優しい言葉ばかりくれるの?って純粋に不思議に思う。

どうして私の事を気にかけてくれるの?って。

もしかしてからかわれているのかもしれない。珍しがられているのかもしれない。何度も何度も頭の中でそう考えては心がそれを即座に否定する。

拓海はそうじゃないって根拠もなく思ってる。


「忘れられちゃうのに傍にいてくれるの?」

「ダメ?」

「⋯ううん。ダメじゃないよ」


全然、ダメなんかじゃない。
だけどもしかしたらいつか、拓海が私と出会った事を後悔する日が来たりするのかなって思ったら寂しかった。

今は優しい言葉をくれても、それがどれだけ真実だとしても時は人の心を変えてしまう。

そう分かっていても、私は見ないフリをしてこのまま過ごしていたかった。