泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


「⋯ていうのはまあ、口実で」

「口実?」

そしてうろちょろさせていた視線を私へと戻した拓海はほんの少しだけ弱々しい笑みを作った。


「本当は、佳乃の連絡先を知りたいだけ」

「連絡先⋯?」

「ダメ?」


不安そうに私を見る拓海は少し、卑怯だと思った。

ダメ?なんて聞かれたらダメという理由のない私は「ダメじゃないけど⋯」というしか出来なくて。


「じゃあ交換しよ」

「⋯うーん、」

「ダメじゃないならいいって事でしょ」


疑問形ではなく断定でそう言った拓海を断る理由はない。

だけど友達を作る事をして来なかった私は誰かと連絡先を交換するっていうのもほとんど初めての経験で。

まだ友達が辛うじていた小学校の頃はスマートフォンなんて持っていなかったし、中学校に上がってスマートフォンを持たせて貰うようになってからは連絡を取り合う様な仲の子はいなかった。

今だってスマートフォンに入っている連絡先といえば、家族を始めとする親族くらいで。

だから、躊躇ってしまうのも仕方ないと思うんだ。


「⋯連絡先交換して何するの?」

「うん?」

「交換する意味」

「んー、意味かぁ」


かなり面倒くさい事を言っている自覚はある。だけど、やっぱり怖い。

仲良くなるにつれて、深く関わり合っていく中で、いつか離れていかれてしまうんじゃないかって不安がないわけではないから⋯。


「例えば、例えばだけどもし、私たちが何か合わない事や分かり合えない事があってさよならをする事になった時に私はきっと凄く落ち込むと思うの」

「うん」

「拓海にとっては私は数ある友達の一人かもしれないけど私の友達は拓海しかいないから⋯」

「うん」

「だから、その時に悲しみから逃れられない事が怖いの」

「逃げる?」

「私は記憶を失える。だけどスマートフォンに連絡先が残ってたらその存在を知ってしまうでしょ?」


そんなの日記帳を見たって同じ事なのに理由をつけてウジウジとしている私は多分、これ以上拓海と近付く事こそが怖いのだと思う。

友達になれた事は嬉しいし、拓海と過ごす時間も楽しい。だけど長年なるべく人と関わらない様にしていたから、一歩ずつ踏み込んでいく事にとても勇気が必要で。