泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】



放課後になり、ふらりと防波堤へと足を運ぶ。

潮風がセーラー服のリボンとスカートを揺らすのを感じながら、そこに腰を下ろした。

夏の海はとても綺麗だ。

波打ち際の白い波も、透き通る様な水色も、奥に行くにつれて真っ青になり、やがて濃紺へと色を変えていく様も。

飽きる事がないくらいに綺麗だと思う。


「佳乃」

「っ」

「うん、佳乃だ」


突然、意味の分からない事を言いながらやってきた男の人。

その人を見た瞬間、この人が日記帳に書いてあった友達だとすぐに分かった。

彼の雰囲気がそうだって言っていたから。

普通、私の事を知っている人は学校の皆のように距離を取るはずで。今日話し掛けてくれた彼女も話しやすくはあったけれどやっぱりどこかよそよそしさが全くないわけではなかったから。

だけどこの彼にはそれが一切ない。

まるで私の記憶の事を知らないみたいに、本当に普通に話し掛けてきて隣に座った。


「⋯た、拓海?」


だけど万が一間違っていた時の為に窺う様に日記帳に書いてあった名前を呼べば、彼はその瞳を僅かに揺らした後、嬉しそうに微笑んだ。


「うん。そうだよ」

「友達の、拓海⋯?」

「うん、そう」


目を三日月型に細めて笑う彼は「今日はアイス食べてないの?」と私の手元を見ながら言う。


「⋯アイス?」

「うん。いつも食べてるじゃん」

「そうなんだ⋯」


いつも食べているのかどうかは自分では覚えていないけど、今日はアイスを買っていなかった。でも、アイスの話をされたら食べたくなってきてしまうのが人の性。


「アイス買いに行く?」

「行く」

「よし、じゃあ行こう」


勢い良く立ち上がった彼に続いて私も立ち上がる。半歩前を歩く彼の背は、大きかった。