泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


その週末、私は日記帳を開いた。

拓海と過ごした時間をノートに描き綴ろうとしたんだ。
だけどやっぱり、書き出す事は出来なかった。

ボールペンを手にして拓海と過ごした時間を頭の中に浮かべてみたけれど、文字にして残す事は出来なかった。

目で見た光景を、彼の表情を声の柔らかさを触れた体温を文字で表すなんて出来なかった。

文字にはしたくないとすら思った。

だって、そのままを文字にする事が出来ないのにそれをずっと残る形にしてしまったらそれが現実になってしまうんじゃないかって、怖くなった。

忘れてしまう私に何が本当で何が嘘なのか分からないから残したものが真実でなくても私はそれを真実だと思ってしまう。

文字にする事が嘘を残す事とは思わない。

だけど私は過ごした時間をそのまま文字に残す事は出来なくて。


虚しい思いと恐怖。

結局、私は日記帳に何も書かないままそれを閉じた。

明日の私は彼と過ごした時間を忘れてしまっているだろう。

それでも、過ごした時間を忘れてしまうんだって思いながら書くのは無理だった。