泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


それからその週は毎日拓海に会った。

私が防波堤にいると必ずやって来る拓海とは本当になんでもない話をして過ごす。

昨日の晩御飯の話とか、見たテレビの話とか。アイス美味しいねとか、暑いね海が綺麗だねとか。

生産性のない会話と言ったら聞こえが悪いけれど、こういうなんでもない会話がとても楽しくて落ち着いた。

時には何も話さずに海を眺めている事もあって、この時間がずっと続けばいいのにって何度も思った。


「それじゃあ、またね」


そして金曜日、いつもの様に手を振って歩き出す、


「⋯佳乃」


私の手を拓海が掴んで引き止めた。

大きくて温かいその手は私の歩みを止めるには充分で、伸びた二人の影が繋がる。


「佳乃」


拓海の顔は切なくて焦燥感滲むその声に私は彼の考えている事が分かってしまった。


今日は金曜日。

土日は学校がないから今週会えるのは今日が最後。

次会えるとしたら、来週になってしまう。

来週になったらまた、私は記憶を失ってしまう。

拓海と過ごした時間を忘れてしまう。


「大丈夫だよ」


本当は堪らなく切なくなった。でも私よりももしかしたら拓海の方が寂しがっているんじゃないの?ってくらいに切ない表情を浮かべる彼に微笑んで見せる。


「大丈夫、だから」

「佳乃、」

「また私はきっとここにいるよ」

「⋯」

「そしたらまた、声を掛けてよ。友達だって」

「っ」


本当はやっぱり、私は友達なんて作るべきではないのかもしれない。

本当は全て書き残しておいた方がいいのかもしれない。

そうすれば拓海を安心させられるのかもしれない。

だけどもう、拓海を失いたくない気持ちの方が強くなってしまっていて。
忘れてしまうと諦めながら自分で思い出を書き残していくのはあまりにも辛い。


──────ごめんなさい。


拓海は何でも私の思ってることを教えて欲しいと言ったけれど、その言葉だけはいってはいけない気がした。