泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


「佳乃」

「な、なに?」

「顔上げて」

「っ無理、」

「こっち見て」


今、拓海はどんな顔をしているんだろう。

きっと余裕そうに笑っているんだろう。

⋯⋯どうして私、こんなにドキドキしてるの?

ふわりと風と共に流れてきた、柔らかい匂い。香水とも制汗剤とも違う、柔軟剤の香り。それがなんだか凄く落ち着く。

それなのに心臓だけはバクバクと忙しなくて、経験のない感情にギュッと目を閉じた。


「残念、ハズレだ」

「⋯え?」

「アイス。ハズレだった」


頭上から彼の気配が遠のいて、そっと目を開けて顔を上げてみる。

視線の先、拓海の手にあるアイスの棒には小さく「ハズレ」の文字が刻んであって。


「⋯残念」

「な」


「明日はアタリ出るかな」と呟いた彼にやっと、息が出来た。

厳密に言えばさっきも呼吸はしていたのだけど、出来ている感じがしなかったというか、ずっと気が張り詰めていたというか───。

だけどそれは拓海が嫌とか、そういうんじゃなくて。


「⋯さっき、何て言おうとしたの?」

「さっき?」

「佳乃ってさぁって⋯、」

「⋯ああ。それね」


暫く思案した後、形の良い唇をゆっくりと釣り上げた拓海は、狡いと言いたくなる様な綺麗な笑みを浮かべていて。


「佳乃って可愛いよねって言おうとしたんだよ」


発する言葉すら狡いのだから、もうどうしようもない。