泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


「アイス⋯?」

「佳乃が好きだって言ってたやつ」

「買ってきてくれたの?」

「うん。ほら、早く食べようぜ、溶ける」


そう言って袋に入ったソーダ味のアイスを一つ私に渡した彼は自分の分のアイスの袋を開けて齧り付く。


「今日は涼しい方だけど、アイスが必要なくらいの暑さはある」

「うん、確かに」


涼しいと言っても気温は30度に近く、たまに吹く風が気持ちいい。

ひらひらとセーラー服のリボンが靡いて、その先を辿るように彼から視線を海へと移した。


「私、今日の朝ちょっと緊張した」

「緊張?」

「日記帳には友達が出来た事しか書いてなくて、友達ってどんな人なんだろう?って。そしたらまさかの男の子で、ビックリした」

「はは、そーなんだ?」


覗き込むようにして私の顔を見た彼は悪戯な笑みを浮かべていて。思いのほか近くなった距離感に不覚にもドキンとしてしまった私は慌ててアイスを齧った。


「ま、まあ、これからもよろしくって事で⋯」

「ん。これからもよろしく」


⋯はあ、と吐いた息はやっと心音が正常な速さに戻ってくれた安堵からで、安心した私は大事な事を思い出した。


「あの、ね、そういえば私、名前を日記帳に書いてなくて⋯、その⋯、」

「名前?」

「うん。聞いてもいい?」


名前を書かなかった事は失敗しと、失礼を承知の上で尋ねた私に彼は嫌な顔一つせずに答えてくれる。


「拓海。坂口拓海」

「坂口、拓海⋯」

「うん。ちなみに佳乃はたっくんって呼んでたよ」

「ええ!?⋯た、たっくん!?」

「冗談だけど」

「⋯本当は何て呼んでた?」


別にたっくんというあだ名自体に驚いた訳ではなくて、朝日記帳を見た時に友達が出来たと書かれた日付は先週だったはず。
もちろんページも一番最後。

つまり私と彼は先週友達になったばかりだと言う事で。それなのにいきなり「たっくん」呼びは相当勇気を持ったなぁ、感心してしまって驚いたのだけどこれは彼の冗談だったらしい。