泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


それから私はまた薄い膜の中に入って過ごす。

放課後になると海を眺めながら帰り道を歩く。

そうして吸い寄せられる様にやって来たのは防波堤。


ずっと海を眺めていたいと思うから。

水平線の向こうが見えない程果てしなく広い海を見ていると何も考えなくてもいい気がして、私は穏やかに寄せては返す波を眺めていた。


「佳乃」


夏にしては気温が下がった今日。少しだけ汗が滲んできた頃、その声はした。


「今日は涼しいな。つっても全然夏だけど」


そう言いながら慣れた様に隣に座る男の子は、やけに綺麗な顔立ちをしている。

だけど黒くて光をたくさん反射する瞳はどこか整った顔立ちの中に幼さを混じえていて。

低くも高くもない声はスピードは普通なはずなのにどこかゆったりと聞こえた。


「君が友達?」


直感で彼が日記帳に書かれていた友達なんだろうと確信した。

私の名前を知っていて、慣れた様に話しかけてきて隣に座る。

根拠はいくらでもあるのに、根拠ではない所で彼が友達なんだって思ったのは本当に不思議だ。フィーリングとはまた少し違うけど、それと似たような所で彼を友達だと思った。


「うん、そう。俺が佳乃の友達だよ」


優しげに笑う彼はそう言いながら私にアイスを差し出した。