泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


「その子と友達になるって決めたんだね」


お母さんから目を逸らさずにいれば、硬い表情をふわりと柔らかくしたお母さんはもう一度コーヒーの入ったカップに口をつけた後、「それなら」と言葉を発した。


「佳乃が決めた事なら私はもう何も言わない」

「⋯お母さん」

「私たちは佳乃を全力で支えるし守るよ。それは佳乃の記憶がなくなってしまうからとかじゃなくて、娘だから。彩乃に対しても思ってる」

「うん」

「もちろん道に迷っていたら手を指しの差しのべるし、間違った道に進もうとしたら正してあげたいと思う。だけど、最後に選択するのはあなたたち自身」

「⋯」

「友達になりたいと思ったなら、そうすればいい。自分で選んで決めたならお母さんは何も言えない」

「⋯うん。ありがとう」

「友達ってね、良いものだよ」


そう言って笑ったお母さんは、中学校の時の友達と今でも交流を持っている事を話してくれた。今は遠い所に住んでいるから中々会う事は出来ないけど、私が小さい頃はよく私を連れて会っていたのだと教えてくれて。

年賀状でのやり取りも続いているらしい。


「自分が大切だと思ったものは大切にしなさい」


大切だと思ったものは大切にする。

それは当たり前の事だけど、絶対に心の中に留めておかなければならない言葉だと思った。

物でも、言葉でも思い出でも人でも、大切なものは大切にしなきゃいけない。

私もそれは例外ではなく。例え記憶を失ってしまっても、きっと大切だと思ったものはまた大切だと思う。

記憶がなくても好きな食べ物を好きだと感じるように。

だからお母さんがくれたその言葉は例え今日の事を忘れてしまっても、記憶からは無くしてしまっても心の中には残しておきたいと思ったんだ。