「なんでっ⋯て、」
「恋する瞬間なんて分かんないもんじゃん。俺だってまさか一目惚れするなんて思ってなかったし」
「それはそうかもしれないけど⋯」
「感情なんてどうこう出来るもんじゃないんだから、佳乃の気持ちがこれからどうなるかなんて誰にも分からない」
「⋯」
「そう思わない?」
太陽にも負けない笑顔を見せる彼に不思議と心が軽くなる。
恋なんて出来ないと思っていたのに、彼の言葉一つでこの先の事なんて分からないんだからもしかしたら誰かと⋯彼と恋をする未来だってあるんじゃないかって思えてくる。
「私はそんな簡単に好きにならないよ」
「はは、その方が燃える」
「⋯まずは、友達から」
「じゃあとりあえず、握手でもしとく?」
そう言って差し出された手のひらは私の手のひらよりもずっと大きくて、おずおずと差し伸べた手はすっぽりと包まれた。
ほんのりと温かい体温を感じながら、必死に胸の高鳴りを抑えた。
「また明日もここにいる?」
「うん。放課後はいつもここに来てると思う」
「じゃあ俺もまた明日ここに寄る」
「⋯じゃあ、また明日」
「またな」
まだ明日は記憶がある。
その事に安心感を覚えながら私は彼に手を振ってその場を去った。
七月初めの夕方はまだまだ明るくて、ミンミンと鳴き始めた蝉の声を聞きながら帰り道を歩いた。



