泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】



それから私は彼に自分の記憶について詳しく話をした。


一週間で記憶がリセットされてしまう事。

基本的に忘れてしまう事が多いけれど特に人の名前やその人との関係性、した事や会話の内容は綺麗さっぱり記憶をなくしてしまう事。

症状が酷くなるより前の事や体に染み付いた日課などは覚えていられる事。


時折どう説明すればいいのか悩みながら、ゆっくりと自分の事を話した。

こんな風に自分の記憶について誰かに話をするのは本当に久しぶりでどう思われるのか緊張したけれど彼は私が話している間ずっとその瞳を逸らす事なく真剣に耳を傾けてくれていた。


「今でも部屋のドアには妹の名前を紙に書いて貼っておかなきゃ一週間の始まりに妹の存在も、名前も忘れちゃう」

「うん」

「話した内容も、過ごした時間も思い出も何もかも全て忘れちゃうんだよ?」

「うん。佳乃の記憶力について少しだけ知れたよ」

「⋯あの、」

「うん?」

「あの、さ。もう一回聞くけど、本当に私と友達になってくれる?」


私は普通ではない。

小学校の時も中学校の時も今も、私の周りには誰もいなくて、もう誰とも関わりを持たない方が良いんだって何度も突きつけられた。

正直に言うと凄く、凄く、怖い。

誰かと仲良くなりたくて深く繋がりたくて、笑い合いたくて。だけどそうする事に慣れていないから怖くて堪らない。

普通とは違う自分をどう思うんだろうって。

傷付けてしまう事も傷付けられる事ももうしたくない。


「私は君のこと忘れるよ」

「うん」

「それでも本当に友達になりたい?」

「うん。なりたいよ。そんで出来ることなら俺のことを好きになってもらいたい」

「⋯好きとか、恋とか私にはきっと無理だよ」


夢だったけれど。憧れだったけれど。

恋なんて出来ないと思っているから夢だったわけで。


「なんで?」


それなのに彼は柔らかい笑みを浮かべながら首を傾げる。