泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】



ジリジリと太陽が輝きを増す夏。

学校帰りにコンビニでアイスを買って、防波堤の上に座る。

すぐそこにコンビニがあるおかげてアイスはまだ溶けていなかった。

ソーダ味の棒付きアイス。その味なんてあまり覚えていないけれど、自然と手に取ったアイスがこれだった。

ピリッと包装紙を破いて淡い青色をした四角いアイスに齧り付けば一気に爽快感が全身を駆け巡った。


「夏だなぁー!」


去年の夏もその前の夏も当然覚えているわけがなく何の思い出も蘇ってはこないけど、この暑さは夏って感じがした。

誰も居ないと思っていた私はアイスを齧りながら「今年は何をしようかな?花火にお祭りにー、あ、ヒマワリも見に行きたいな」そんな一人言を呟いていた。

きっと、今言った事は覚えていられないんだろうけれど、口に出して言う分には何もおかしくはない。むしろ口に出した方が覚えていられるんじゃないかっていう、実績も根拠もない自信で「浴衣は何色がいいかな⋯。白い浴衣が可愛いかな」と程なくしてやって来る夏休みに思いを馳せていると─────、


「俺もその夏休みの計画に混ぜて欲しいんだけど」


と急に背後から声がして思わずアイスを落としそうになった。


「⋯⋯だ、誰?」


驚きつつ振り返った私の後ろに立っていたのは、背が高くてやけに整った顔立ちの男の子。太陽と海の恵を目いっぱい吸収した様なキラキラした瞳が、綺麗な顔立ちに親しみやすさを醸し出す。


「アンタの、友達」

「⋯友達?」

「そう。で、恋人候補?」

「⋯⋯恋人って、恋の人って書いて恋人?」

「そう。その恋人」


そう言って柔らかく笑った彼は慣れた様子で私の隣に腰を下ろした。

その瞬間に感じた胸の高鳴りは一体どんな意味を持つのだろう?

私はまだ、知らなかった。

友達と過ごす夏も、恋をする事も、まだ何も知らなかったんだ。