二人になったリビングでは今度こそお母さんの溜め息がしっかりと聞こえた。
「佳乃、彩乃だって意地悪で言ってるわけじゃないのよ」
「うん。分かってるよ」
「彩乃が言った事はお父さんの言った通り気にしなくていいから。大丈夫だからね」
「うん。大丈夫」
軽く微笑んで牛乳を飲む。
トーストの日は牛乳と決まっているらしい我が家。確かに朝の一杯に牛乳は元気が出るかもしれない。
「⋯佳乃もコンクール連れて行くからね」
「⋯⋯うん。ありがとうお母さん」
お母さんはきっと、全力で私に寄り添い支えてくれようとしているし、今までだってそうしてきてくれた。だけどそれと同時に彩乃との間で板挟みにもなっていて、その気苦労は想像を絶するものがあるのだろう。
たったの数十分で彩乃に嫌われている事を知る。だけどすぐにそれも納得出来てしまう。
妹に嫌われているなんて受け入れたくはないけれど、何でもかんでも忘れてしまう姉なんてきっと迷惑でしかない。
お母さんもお父さんも、彩乃の気持ちも痛いほど分かるから、どちらかの味方をするわけにもいかずに困っている。
彩乃の私に対する態度が意地悪ではない事はちゃんと分かっている。
紛れもない本心で、苦しい叫び。
私という存在に傷つき、辟易とし、苦しむ彩乃の純粋な言葉だ。
だからこそ私は気にしないなんて事は出来ないし、それに対する手段も分からない。
もしもこれが彩乃が意地悪で私にああいう態度を取っているのなら気にしないで知らんぷりする事も出来るのに。彩乃の言葉は当然の事で、純粋な本音で。だから私はそれを無視する事も出来なければ何かをしてあげられるわけでもなく、ただ消えてしまいたいと思いながら日々を過ごしていくしか出来ない。
次の月曜日にはそう思った事も忘れて、馬鹿みたいにまた同じ事を一から思うのだろう。



