ゆっくりと、彼の瞳が下がっていく。
歪んだ眉と何かを発しようとしてはそれを止める唇。
答えなんて分かっていた。
予想も覚悟も出来ていたはずなのに。それなのに今、凄く悲しいのはどうしてだろう。
こんなの慣れたつもりだったのに、張り裂けそうな胸の痛みを和らげる方法が分からない。
「ごめん⋯」
そう言って背を向けた彼に伸ばしたくなる手を堪えた。
これでいい。これが当たり前だと言い聞かせながらも、私は段々と小さくなっていくその背中をいつまでもいつまでも見つめていた。
心地よい波音をこんなにも煩わしいと思った事はきっとないと思う。
今はまるで傷を抉る様に、悲しみを増幅させる様に鼓膜を震わせるその音が不快で不快で仕方なかった。



