泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】



一週間前の事を覚えていられないなんて普通ではありえないのだからその反応は当然といえば当然で。

私はもう一度、自分の記憶力に関しての説明をした。


「私は幼い頃から一週間分の記憶しか貯めておけない。一週間で記憶がリセットされてしまうから、七日過ごして八日目の朝になるとその七日分の記憶はなくなってるの」

「⋯一週間しか記憶が出来ない?」

「うん。本当に小さな頃はまだここまで酷くはなかったんだけど、幼稚園に上がる頃には一週間で記憶を失ってしまう様になった」

「⋯⋯」

「症状が酷くなる前に覚えていた事、例えば両親の事とか自分の名前とか。後は生活する上で身に付いた習慣とか常識とか、そういう物は覚えていられる。だけど他の事は全て忘れちゃうんだ」

「忘れちゃうって⋯、っだからさっきも俺のことっ、」

「うん。覚えてなかったの。あなたのことも、約束した事も」


その言葉に彼が息を呑む。

訝しげに私を映す瞳は半信半疑といったところだろう。

その気持ちもわかる。私もそっち側だったら嘘でしょって思うから。だけどこれは紛れもなく本当の話で。

嘘であって欲しいと一番願っているのはこの私だ。