泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】



「─────なあ、」



放課後、防波堤に座りながら何も考えず海を眺めていた時、後ろから声を掛けられた。


「一週間ぶり」

「⋯⋯」

「もうすっかり日が長くなったなぁ」

「⋯⋯」

「隣座っていい?」


やけに整った顔立ちの男の人は、私が返事をするよりも前に私の横に腰を下ろした。

一体この人は誰なんだろう?そんな疑問を感じ取ったのか彼は僅かに眉を下げながら口を動かす。


「あー⋯、もしかして忘れちゃった?」

「⋯え?」

「来週またここに来てってアンタが言ったんだよ」


少しだけ寂しそうにそう言った彼に私は何と言ったらいいのか分からなかった。

だって私はこの人に面識がない。それは実際に会った事がないわけではなくて記憶にないだけなのだろうけれど、そんな私が自ら来週またここに来てって言ったなんてすぐには理解出来なくて。


「⋯どうして私とそんな約束を?」

「好きだって言ったから」

「好き?」

「俺がアンタに一目惚れしたからまずは友達になって欲しいって話たら、また来週ここに来いって言ったんだよ」

「私が⋯?」

「うん、そう」


考えれば考えるほど分からない。

そもそも、今の話では彼は私のことを好きだという事になる。一目惚れだなんてにわかには信じられない。私のどこに好きになる要素があるというのか。だけど、彼が嘘を言っている様にも見えなくて。

私は何故、来週の約束なんてしたんだろう。

覚えていられるはずがないのに、どうして⋯。