泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


朝、海沿いの道路を歩きながら海を感じる。

涼しい波音と遠くに広がる水平線。

太陽の光に照らされてキラキラ輝く水面と潮の香りはやはり、懐かしさを感じさせる。

懐かしい記憶なんてないくせに、不思議と懐かしくなる。

記憶のメカニズムの事はよく分からないけれど、いつかは私も過去の事を思い出せる日がくるのだろうか。


海はどこまでも広くて。そんな海を見ていると凄く気持ちが楽になったんだ。



教室に着くとまた、私の周りには膜が出来る。

誰も私に話しかけないし、私も話しかけない。必要最低限の事しか私は人とコミュニケーションを取らない。

静かな学校生活にはもうすっかり慣れてしまったけれど、時々⋯ううん、本当は昔からずっと、周りの子を羨ましいと思っている。

どう接すればいいのか分からなくて困惑した表情に何もかも忘れてしまう私に傷付く顔、それか何度も同じ事を説明させてしまう私を疎ましく感じている目。

クラスメイトと呼ばれる人達が私に向ける顔なんて大体その3パターンで。

小学校高学年の時も中学の時も高校でだってそれは変わる事なく続いた。

実際にその表情や出来事を覚えているわけではないけれど、一週間生活していくうちに嫌でも思い知らされる。


クラスメイトに悪気はなくても、困惑だったり迷惑だったり、そういう感情の篭った目を何度も向けられるから。

朝私が登校してきただけで様子を窺っている様な人もちらほらいる。

それはお母さんか向ける心配とは違い、物珍しそうに、私が教室に入ってから席に着くまでを見ている。

もしかして私が今日は記憶を失っていないかを見ているんだろうか。過去の事を全て思い出したのかが気になるんだろうか。

それとも一週間と記憶が持たずに自分の席も忘れてしまったのではないかと思っているんだろうか。


そういう奇異の目を向けられる度にさらし者にでもなったかの様な感覚になる。毎日、毎日だ。

だから当然、痛感させられる。

私はずっとそういう目を向けられていたし、これからも向けられながら過ごしていくんだって。