泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


一週間で記憶がなくなってしまう事はとても不便だ。

せっかく頑張った勉強だって意味が無い。
幸い簡単な計算式は出来るものの、やっぱり公式等は覚えていられないから成績は驚く程良くない。
記憶科目なんてもう、鉛筆コロコロで乗り切っているし。
唯一点数を取れる科目といえば国語類や体育、実技科目である。けれど悲惨な事に私は運動音痴でもある。


だから私の偏差値は平均を下回るくらいのものだから通っている高校は比較的偏差値の低い地元の公立高校で。

あまり風紀も良くはないけど、セーラー服ってところはお気に入りだ。


「いってきまーす!」

「いってらっしゃい」

朝、朝食を食べ終えた妹の彩乃(あやの)が家を出る。
中学三年生になった彩乃は吹奏楽部の部長をやっているらしく、毎朝朝練を頑張っている。

「⋯い、いってらっしゃい!」

トーストを齧りながらリビングを後にする彩乃に声を掛ければ、いつもの様にひんやりとした視線を向けられ、そのまま彩乃は返事をする事なくドアをバタンと閉めた。


妹の彩乃のこんな風に関係が冷えてしまったのはいつからだったっけ。

いつから彩乃はああいう目を私に向けるようになったんだっけ。

そもそも私たちが仲の良かった時期はあるんだろうか。出来事を覚えていられない私にはその答えすら出せなくて。

私がこんなんだから嫌われてしまうのは仕方のない事だって、もう、とっくに諦めている。