泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】




朝目が覚めて、リビングへ向かう。

今日の朝ごはんはトーストにサラダ、スクランブルエッグにコーンスープと洋食の様だ。


「そういえば彩乃はそろそろ夏の大会が近いんじゃないか?」


コーヒーを飲んだお父さんが思い出した様に口にする。彩乃は吹奏楽部に入っているらしく、その大会が近いらしい。


「うん。八月に地方大会がある。まあ、うちは県大会に出られる程ではないから多分そこで引退かな」

「あら。部長が諦めたらいけないわよ」

「その日は仕事、開けておかないとなあ」

「私もパートのシフト考えて入れなきゃだわ」


大会を観に行く気満々のお父さんとお母さんに彩乃は「別に来なくてもいいよ」と言いつつもその表情は嬉しそうで。

吹奏楽ってどんなものなんだろう?と気になった。


「ねぇ、吹奏楽ってどういうの?」


だけどその言葉を発した瞬間、隣で嬉しそうに微笑んでいた彩乃の顔に翳りが浮かぶ。

考えナシに口にした言葉を後悔するのももう幾度となく繰り返した。それでも私はまだ、成長出来ていない。


「吹奏楽っていうのは、音のなる楽器を使って曲を演奏するの」

「⋯そうなんだ。凄いね」


お母さんの説明にはイマイチピンと来なかったけど、曲を演奏出来るなんて凄い!と思ったのは本当。

だけど彩乃にはそれが嘘だって感じた様で。


「私の楽器もわからない、前に演奏を観にきた時の事だって覚えてないくせに凄いとか嘘言わないでよ」

「⋯っ」

「凄いかどうかさえ分からないでしょ?お姉ちゃんには」


水を打ったように静まり返るリビング。

お父さんとお母さんが困った様に顔を見合わせた。


「ご馳走様でした。朝練遅れるからもう行く」


そんな中まだ半分以ある朝食を残して席を立った彩乃は私の方を一切見る事なく家を出て行った。