泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】



私にとって思い出は、一炊の夢。

7日経ってしまえば、もう思い出せない。

けれど思い出せなくてもいいやって、拓海が代わりに覚えていてくれるなら、思い出が消えてなくなるわけじゃないならいいやって、少しだけそう思えるのは私の隣にこれから先も拓海がいてくれるから。

記憶を失ってしまっても、大切な人が今日を笑って過ごしてくれるなら救われる。


これから先怖い時も苦しい時も隣に拓海がいてくれるなら大丈夫、きっと。

明日も明後日もその先も、大切な人には笑顔でいて欲しい。

その為に私はこのかけがえのない瞬間を大切にする。一秒先の君の笑顔が見たいから。


出来ることなら全て忘れたくない。

いつだって思い出して触れられる場所に閉じ込めておきたい。

今私を引き寄せて抱きしめる手の力も胸の温かさも愛しそうに笑うその顔も、声も全部、忘れたくない。


──────忘れたくない。


だけどもうそれがどうしようも出来ない事なら、私自身がそれを受け入れようとしなくちゃいけない。

忘れたくないと思う分だけ、今を大切にしなくちゃいけない。


今を全力で楽しんで、全力で笑って泣いて、

この瞬間を目に焼き付けて心に刻んで、

大好きな人に「ありがとう」って言って、

「愛してるよ」って伝えたい。


きっと一日一日を大切に過ごしていけば、見えない未来の先で私は大好きな拓海と笑っていられるのだと思う。