私のその言葉にグッと肩に回されていた手に力が入ったのが分かった。
「なぁ、佳乃」
名前を呼ぶ声はどこまでも凛としていて、簡単に私の心の中に真っ直ぐ届く。
「好きだって言ったじゃん」
「っ」
「この先傷付くかもしれなくても、それでも佳乃が好きだから傍にいたいんだよ」
「⋯っ」
「いいよ、傷付けて」
「っ拓海⋯?」
「そんでその度に二人で乗り越えていこう。悲しみも寂しも恐怖も二人で分け合っていこうよ」
「⋯っ」
「寄り添うから。何があっても佳乃に寄り添うから、だから佳乃も俺もを信じて傍にいてよ」
「⋯っ思い出も、交わした言葉も覚えてない私でいいのっ?」
結局、一番怖かったのはそれだ。
一番不安だったのはこんな私が拓海の傍にいてもいいのかという事だった。
今日の事だって明日には忘れてしまう私が拓海との未来を夢見てもいいのか。
つーと一筋の涙が頬を流れて、それに気付いた拓海が柔らかく笑ってそれを拭った。
その指先の温度さえ、忘れたくなくて。
匂いも、鼓動の速さも、声もキラキラした優しい瞳も艶のある黒髪も、全部忘れたくなくて。
「佳乃が忘れても俺が覚えてるよ」
「っ」
「俺が覚えてるから、大丈夫」
「っ」
「佳乃の分まで俺が覚えてる」
「⋯っ拓海」
「それにさ、記憶なんてものは皆少なからず忘れていくものだよ」
「⋯っ」
「俺だって忘れた事はたくさんあるし、歳を取れば取るほど昔の記憶は薄れていく。人ってそういうものでしょ」
「⋯っ」
「ただ佳乃はそれが人より速いだけ。ただ一週間で記憶が薄れてしまうだけだよ」
「だから、私でいいの?なんて聞かないで。俺が佳乃じゃないとダメなんだよ」



